2. 有職故実・宮廷文化の基礎文献
職人の仕事が依拠している「型」や「しきたり」の背景にある、有職故実・宮廷文化の体系を理解するための文献群である。
公家社会の約束事としての有職故実を、「衣」「食」「住」「文化」などの領域に分けて整理した便覧である。 年中行事や装束、調度、色彩感覚までを含めた総覧的な内容であり、 「職人が扱っているモチーフや色が、どのような意味体系の中に位置づけられてきたか」を理解するのに適している。
有職故実研究家による説明と豊富な文献・図版資料、そして老舗料亭「西陣 魚新」による雅やかな有職料理などで、総数130以上の行事や通過儀礼を紹介する充実の事典。
宮廷文化に関する展覧会図録は、装束・調度・絵巻・屏風などの高精細写真と専門的な解説が揃うため、 有職彩色の現場で「見本」としても重視されている。 ラグジュアリーブランドにとっても、線・間・余白・配色の「型」を読み解く資料として利用価値が高い。
3. 日本の伝統色・配色感覚に関する文献・サイト
第7回要約で取り上げられた「有職の六色」「赤の護符性」「陰陽五行と色」などを、 配色の観点から掘り下げるための資料である。
日本の伝統色名を多数収録し、カラーチップと歴史的背景、名称の由来などを解説する事典である。 有職故実で用いられる色名(蘇芳・緋色・萌黄・浅葱・桔梗・朽葉など)をトーンとともに確認し、 「現在の印刷色・ディスプレイ色にどう移し替えるか」を検討する際の基礎資料となる。
https://nipponcolors.com
和色のカラーコードと名称、由来をオンラインで一覧できるサイト群である。 デジタル媒体のデザインやWeb表現において、有職の配色感覚を近似させるときの 実務的な参照として、有用である。
4. ラグジュアリーと職人技・伝統工芸の接点を論じる文献・記事
第7回研究会では、「名を消す」職人性と、世界的ラグジュアリーブランドの自己演出とのコントラストが印象的であった。 ここでは、日本の伝統工芸とラグジュアリービジネスの関係を論じる資料を紹介する。
日本の伝統工芸を「ジャパン・ラグジュアリー」として再定義し、 職人技を軸としたブランド戦略・国際展開を論じる記事群である。 職人の手仕事をいかに物語化し、限定性・希少性と結びつけるかという論点は、 林氏の「名を消す」姿勢との対比を通じて検討すると示唆が多い。
欧州系メゾンのブランド構築・ヘリテージ活用・職人技の見せ方などを分析した書籍である。 第7回研究会の内容と照らし合わせることで、 「日本的な職人観を前提としたラグジュアリー」と「グローバルに流通しているラグジュアリー像」 の接点とずれを、クリティカルに整理することができる。
5. 学術的・理論的な補助文献
職人の視点から見たラグジュアリーを、文化研究・美学・経済学の言葉で整理するための補助文献である。 ここでは、個別書名というよりも、検索・調査の際のキーワードを示す。
線一本・配色一つにおける「正解/不正解」の感覚を、美学・美術史の言葉で整理する文献群である。 有職彩色の実践から立ち上がる「美の基準」が、どのような歴史的文脈に位置づけられるのかを確認する際の参照として有用である。
職人の仕事が生み出す文化的価値を、いかに市場価値・ブランド価値に翻訳しうるかを扱う研究領域である。 第7回研究会の内容を、経済学・経営学のフレームに乗せて議論する際の理論的背景として参照しうる。
6. 読書ガイド――どこから読み始めるか
〔ステップ1〕講師の視点に直接触れる
- 『王朝のかたち―宮廷文化を伝える風物たち』を通読し、図版中心に「王朝の形」と色彩に慣れる。
〔ステップ2〕有職故実と宮廷文化の構造を押さえる
- 『有職故実便覧』『有職故実から学ぶ 年中行事百科』などで、年中行事・装束・配色の意味体系を俯瞰する。
- 必要に応じて、展覧会図録で実物写真を確認する。
〔ステップ3〕色彩・ラグジュアリー・職人論へと展開する
- 和の伝統色事典やオンライン色見本で、有職の色名と具体的な色のニュアンスを確認する。
- ラグジュアリーブランドと日本の職人技を扱うビジネス記事・専門書を読み、 第7回研究会で提示された「名を消す職人」と「自己演出するブランド」の対比を、自身の言葉で再構成する。