Art in Business 研究会
Reference Guide

第7回「職人の目からみたラグジュアリー」
参考文献・関連資料

本ページでは、有職彩色絵師・林美木子氏が語った「職人の目からみたラグジュアリー」をより深く理解するための 書籍・事典・ウェブ資料を整理する。宮廷文化と有職故実、伝統色と配色、美意識と職人技、 そしてラグジュアリービジネスとの接点を、体系的な読書ガイドとして提示する。

第7回 アートインビジネス研究会|テーマ:職人の目からみたラグジュアリー|講師:林美木子 氏

1. 林美木子氏・講師関連文献

まずは、第7回研究会の講師である有職彩色絵師・林美木子氏の仕事と、 宮廷文化の世界観を直接感じ取ることができる文献を掲げる。

猪熊兼樹〈文〉・林美木子〈有職彩色〉『王朝のかたち―宮廷文化を伝える風物たち』2012年, 淡交社
有職故実を代々伝える学者の家柄に生まれ、祖父・父の薫陶をうけた気鋭の研究者と、京都御所近くの旧家に育ち、深くみやこの「気」を受けながら創作活動を行なう有職彩色絵師とのコラボレーション。

平安以来の宮廷文化にまつわる行事・道具・風物を、有職故実の視点からわかりやすく解説しつつ、 林氏の彩色による鮮やかな有職図版で紹介する入門書である。重陽節・夏越祓・ぶりぶり・貝桶など、 第1~6回研究会とも通じるモチーフが多数取り上げられており、「行事と造形」「儀礼と美意識」が どのように結びついているかを理解する上で、もっとも基本となるテキストである。

有職故実入門 宮廷文化 図版が豊富
※研究会で言及された有職の小物・貝桶・檜扇などの造形感覚を追体験するために、 まず本書の図版を「じっくり眺める」読み方が推奨される。

2. 有職故実・宮廷文化の基礎文献

職人の仕事が依拠している「型」や「しきたり」の背景にある、有職故実・宮廷文化の体系を理解するための文献群である。

2-1. 有職故実の全体像を学ぶ
八條忠基(著)『有職故実便覧: 王朝文化ビジュアル案内』2024年,淡交社
日本の王朝文化を支えた「有職故実」――その全体像をあらわす一冊。

公家社会の約束事としての有職故実を、「衣」「食」「住」「文化」などの領域に分けて整理した便覧である。 年中行事や装束、調度、色彩感覚までを含めた総覧的な内容であり、 「職人が扱っているモチーフや色が、どのような意味体系の中に位置づけられてきたか」を理解するのに適している。

有職故実 衣食住の体系
八條忠基(著)『有職故実から学ぶ 年中行事百科』2022年, 淡交社
総数130以上の年中行事・通過儀礼を、文献資料と図版で紹介する充実のカラー百科事典

有職故実研究家による説明と豊富な文献・図版資料、そして老舗料亭「西陣 魚新」による雅やかな有職料理などで、総数130以上の行事や通過儀礼を紹介する充実の事典。

年中行事 宮中と食文化
2-2. 宮廷文化・王朝美のビジュアル資料
京都国立博物館 『特別展覧会 王朝の美 京都国立博物館 図録』1994年
平安時代の文化、特に『源氏物語』の世界(絵巻、衣装、仮名文字など)を豊富なカラー写真で紹介。

宮廷文化に関する展覧会図録は、装束・調度・絵巻・屏風などの高精細写真と専門的な解説が揃うため、 有職彩色の現場で「見本」としても重視されている。 ラグジュアリーブランドにとっても、線・間・余白・配色の「型」を読み解く資料として利用価値が高い。

展覧会図録 ビジュアル資料

3. 日本の伝統色・配色感覚に関する文献・サイト

第7回要約で取り上げられた「有職の六色」「赤の護符性」「陰陽五行と色」などを、 配色の観点から掘り下げるための資料である。

内田広由紀(著)『定本 和の色事典』2015年, 視覚デザイン研究所
日本の伝統色の数々の写真を文学作品の登場例とともに、わかりやすく解説。 掲載色数は1000色以上。

日本の伝統色名を多数収録し、カラーチップと歴史的背景、名称の由来などを解説する事典である。 有職故実で用いられる色名(蘇芳・緋色・萌黄・浅葱・桔梗・朽葉など)をトーンとともに確認し、 「現在の印刷色・ディスプレイ色にどう移し替えるか」を検討する際の基礎資料となる。

伝統色 カラーチップ
NipponColors(日本の伝統色を紹介するウェブサイト)
https://nipponcolors.com
他:「粋屋 - 日本の伝統文様と伝統色」「伝統色のいろは」など

和色のカラーコードと名称、由来をオンラインで一覧できるサイト群である。 デジタル媒体のデザインやWeb表現において、有職の配色感覚を近似させるときの 実務的な参照として、有用である。

オンライン資料 デジタル色指定

4. ラグジュアリーと職人技・伝統工芸の接点を論じる文献・記事

第7回研究会では、「名を消す」職人性と、世界的ラグジュアリーブランドの自己演出とのコントラストが印象的であった。 ここでは、日本の伝統工芸とラグジュアリービジネスの関係を論じる資料を紹介する。

日本の伝統工芸とラグジュアリービジネスを扱うビジネス記事・レポート
例:オンラインメディア(経済誌・ビジネス系Web)による特集記事

日本の伝統工芸を「ジャパン・ラグジュアリー」として再定義し、 職人技を軸としたブランド戦略・国際展開を論じる記事群である。 職人の手仕事をいかに物語化し、限定性・希少性と結びつけるかという論点は、 林氏の「名を消す」姿勢との対比を通じて検討すると示唆が多い。

伝統工芸 ブランド戦略
ラグジュアリーマーケティング/ブランド論の専門書
例:国際ラグジュアリーブランドを題材としたマーケティング論・ケーススタディ

欧州系メゾンのブランド構築・ヘリテージ活用・職人技の見せ方などを分析した書籍である。 第7回研究会の内容と照らし合わせることで、 「日本的な職人観を前提としたラグジュアリー」と「グローバルに流通しているラグジュアリー像」 の接点とずれを、クリティカルに整理することができる。

ラグジュアリーマーケティング ヘリテージ

5. 学術的・理論的な補助文献

職人の視点から見たラグジュアリーを、文化研究・美学・経済学の言葉で整理するための補助文献である。 ここでは、個別書名というよりも、検索・調査の際のキーワードを示す。

美学・日本美術史・工芸論に関する文献
キーワード:日本美術史/工芸論/〈わび・さび〉/生活工芸/宮廷文化論 など

線一本・配色一つにおける「正解/不正解」の感覚を、美学・美術史の言葉で整理する文献群である。 有職彩色の実践から立ち上がる「美の基準」が、どのような歴史的文脈に位置づけられるのかを確認する際の参照として有用である。

美学 日本美術史
文化経済学・ラグジュアリー産業研究
キーワード:文化産業/クリエイティブ産業/ラグジュアリー市場/文化価値と経済価値 など

職人の仕事が生み出す文化的価値を、いかに市場価値・ブランド価値に翻訳しうるかを扱う研究領域である。 第7回研究会の内容を、経済学・経営学のフレームに乗せて議論する際の理論的背景として参照しうる。

文化経済学 創造産業

6. 読書ガイド――どこから読み始めるか

〔ステップ1〕講師の視点に直接触れる

  • 『王朝のかたち―宮廷文化を伝える風物たち』を通読し、図版中心に「王朝の形」と色彩に慣れる。

〔ステップ2〕有職故実と宮廷文化の構造を押さえる

  • 『有職故実便覧』『有職故実から学ぶ 年中行事百科』などで、年中行事・装束・配色の意味体系を俯瞰する。
  • 必要に応じて、展覧会図録で実物写真を確認する。

〔ステップ3〕色彩・ラグジュアリー・職人論へと展開する

  • 和の伝統色事典やオンライン色見本で、有職の色名と具体的な色のニュアンスを確認する。
  • ラグジュアリーブランドと日本の職人技を扱うビジネス記事・専門書を読み、 第7回研究会で提示された「名を消す職人」と「自己演出するブランド」の対比を、自身の言葉で再構成する。
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