1. 講師関連・「宮廷のデザイン」の全体像をつかむ文献
まずは、第5回研究会で中心的に参照された王朝文化・宮廷デザインの全体像を提示する文献である。 儀礼・建築・装束・調度・色彩を横断的に扱うものを冒頭に置く。
有職故実を代々伝える学者の家柄に生まれ、祖父・父の薫陶をうけた気鋭の研究者と、京都御所近くの旧家に育ち、深くみやこの「気」を受けながら創作活動を行なう有職彩色絵師とのコラボレーション。平易な文章と色鮮やかな作品を通し、読者を宮廷文化の世界へといざないます。「左義長」「玄猪」「夏越祓」など、言葉は知っていても詳しく解らなかった事柄も丁寧に解説、茶の湯における季節の取り合わせのヒントにもなる内容です。
平安京・朝堂院・内裏・寝殿造などをテーマとした展覧会図録は、 宮廷建築の復元図・出土資料・装束・調度の写真が一括して参照できる点で有用である。 ラグジュアリーの観点からは、「どこまでが見せ場で、どこからが舞台裏か」という空間構成を視覚的に確認できる点が重要である。
2. 儀礼(新嘗祭・大嘗祭・即位礼)に関する文献
第5回研究会では、新嘗祭・大嘗祭・即位礼など、農耕儀礼と皇位継承儀礼が「宮廷のデザイン」の中核として扱われた。 これらを理解するための文献を整理する。
新嘗祭・大嘗祭・即位礼が、古代から近世に至るまでどのように変化し、位置づけられてきたかを解説する概説書である。 仮設の大嘗宮を建ててすぐに壊す「一代一度のポップアップ建築」という構造は、 ラグジュアリービジネスにおける期間限定空間・エフェメラルなブランド体験を考える上で示唆に富む。
本書は、平安時代(主として9~12世紀)の宮廷社会における儀礼を「文化システム」として総合的に分析した研究書である。 単なる儀式の列挙ではなく、儀礼が政治秩序・身分秩序・時間意識をいかに構成したかを明らかにする点に特色がある。
3. 宮廷建築・空間構成に関する文献
紫宸殿・清涼殿・寝殿造といった宮廷建築は、「見せる権威」と「暮らす親密さ」を同時にマネジメントするデザインである。 その空間構造を扱う文献である。
本書の核心概念は副題にある「地中に息づく都」である。現代京都の地下に残る、条坊制の道路跡、宮城・官衙の礎石、邸宅の庭園・井戸・排水溝といった遺構情報をもとに、 失われた平安京を立体的に再構築する点に独自性がある。 外廷・内廷・後宮の配置は、ラグジュアリー・ブティックやホテルのゾーニングを考えるうえでのモデルとなりうる。
本書は、京都御所(内裏)・大宮御所・仙洞御所という三つの皇室空間を一体として捉え、その歴史・建築・庭園・儀礼的意味を総合的に紹介するビジュアル解説書である。 京都という都市に内包された「皇室空間の重層性」を理解するための標準的資料と位置づけられる。 紫宸殿前の桜・橘といったシンボル配置や、塀・門・庭のレイヤー構造は、 ブランド・イメージを空間として翻訳する際の具体例として参考になる。
4. 装束・色彩・位階制度に関する文献
黄櫨染御袍・束帯・十二単の色・文様・素材は、「階層を可視化するデザインシステム」である。 色と位階の関係、文様と資格の関係を扱う文献である。
日本史において、装束はただ着飾るためのものではなく、衣服の材質、色、文様、また装身具の選択に至るまで、厳密な規定に基づいた「身分の標識」だった。 本書では、そうした装束の規定や構造を豊富な図像資料とともに解説する。
本書は、日本文化における「色」を、単なる美的要素としてではなく、社会制度・宗教観・身分秩序・感性の歴史として捉えた通史的研究書である。 とりわけ、古代から近世にかけての色彩意識の形成と変容を、文献史料と美術資料の双方から丹念に読み解いている。 「色の独占」「色のグラデーションによる身分表示」は、 シグネチャーカラー・限定カラーを軸とするラグジュアリー商品の差別化戦略に対応させて読むことができる。
有職故実が完成をみた平安時代における呪術と科学の関連を、多様な宗教の体系ごとに概説し、文献史料と豊富な図版で紹介する大図鑑。 デザインの現場では、「色コード本」だけでは再現しきれない質感や輝きを読み取るための視覚教材となる。
5. 宮廷文化を「デザイン・システム」として読むための文献・視点
第5回研究会では、宮廷文化が「儀式・建築・装束・色彩・位階制度」を束ねた巨大なデザイン・システムとして読み直された。 そのような読み替えを助ける文献や視点である。
王権の正当性を、儀礼・建築・装束・文学・音楽の総合演出として捉える研究は、 「ブランドのシグネチャー体験」を構想する上での理論的枠組みとなる。 宮廷のデザインが「権力を見せる」だけでなく、「人びとの生活リズムを整える装置」であったという視点を与える。
宮廷のシステムと、現代のラグジュアリーブランドの旗艦店・VIPサロン・限定イベントを 対比させつつ読むことで、「宮廷的なラグジュアリー」と「資本主義的ラグジュアリー」の共通点と差異が立ち上がる。 特に、儀礼の反復性・空間の二重構造・色と階層の対応関係といった要素は、ブランド戦略との親和性が高い。
6. 読書ガイド――どこから読み始めるか
〔ステップ1〕「宮廷のかたち」を視覚的に掴む
- 『王朝のかたち』や展覧会図録など、図版の多い概説書を通して、紫宸殿・清涼殿・束帯・十二単といった「形」を眺める。
- 第5回研究会の配布資料と照合しながら、「この空間・この装束がどの場面に対応するか」を確認する。
〔ステップ2〕儀礼と建築の構造を押さえる
- 新嘗祭・大嘗祭・即位礼の概説書を読み、朝堂院(外廷)と内裏(内廷)の使い分けを理解する。
- 寝殿造・京都御所に関する建築史文献で、「見せる場」と「暮らす場」のゾーニングをより具体的に把握する。
〔ステップ3〕装束・色彩・位階をラグジュアリーに接続する
- 装束史・色彩史を読み、黄櫨染・禁色・文様利用の資格などを整理する。
- ラグジュアリーのマーケティング文献と照らし合わせて、「色・素材・パターンによる階層設計」を自分なりの言葉で再構成する。
〔ステップ4〕「宮廷のデザイン」=ブランド・システムとして再解釈する
- 宮廷文化論・象徴権力論と、ラグジュアリーブランド論を対読し、儀礼・建築・装束を統合する「デザイン・システム」としてまとめる。
- 第5回研究会での議論を踏まえ、自身のビジネスやブランドの文脈に引き寄せてメモを作成する。