1. 日本人の起源を学ぶ基本文献

埴原和郎『日本人の起源』, 1994年 古典的概説
埴原和郎著/一般向け新書レーベル各版

「二重構造モデル」で知られる人類学者・埴原和郎による、日本人の起源をめぐる古典的概説書である。 縄文人と弥生人という二つの流れがどのように交わり、日本列島の人口史を形づくってきたのかを、 骨の形態や考古学的資料に基づいて平易に解説している。

研究会で議論された「単一のルーツではなく、重層的な人口史」という視点の背景を理解するための出発点として適している。

篠田謙一『新版 日本人になった祖先たち―DNAが解明する多元的構造 』, 2019年 DNA人類学
篠田謙一著/NHKブックス No.1255

DNA人類学の第一人者が明らかにした衝撃の事実。従来の「縄文人と弥生人の混血で日本人が生まれた」説が覆される! ロングセラーとなった初版に、革命的新技術「核ゲノム分析」による大幅な進歩の成果を惜しみなく盛り込んで、バージョンアップした完全版刊行。

考古学・形質人類学の知見とあわせて読むことで、「日本人の起源」に関する最新像をバランスよく理解できる。

谷口 康浩『入門 縄文時代の考古学』, 2019年 同成社 考古学入門
谷口 康浩ほか著/考古学シリーズ・図説など

縄文・弥生時代を対象とした考古学入門書。土器・集落・墓制・農耕のあり方など、物質文化の変化を通して、 列島社会がどのように変容していったかを学ぶことができる。

「日本人の起源」を遺伝子だけでなく生活・技術・世界観の変化から捉えるための資料として有用である。

海部陽介『日本人はどこから来たのか』, 2019年 文藝春秋 日本人の起源
国立科学博物館人類史研究グループ長による考察

従来の「人類の祖先は海岸沿いに移動した」という説によれば、日本人の祖先は太古、海面が低かった陸続きの時代に歩いて日本列島にやってきた、と考えられていた。この定説に疑問を抱いた、著者を中心とする「国立科学博物館人類史研究グループ」は、ユーラシア大陸全体より出土した遺跡のデータを集め、その年代と、そこより出土した人骨のDNAを、地図上に再現した。

当時の船を手作りし、黒潮に乗って沖縄の島から島へと航海する挑戦の様子は、NHKスペシャル「人類誕生」で取り上げられた。

2. 多民族国家・「単一民族神話」を考える文献

小熊英二『単一民族神話の起源 ― 日本人の自画像の系譜』, 1995年 新曜社 国民国家論
小熊英二著/新曜社 ほか

明治以降、日本がいかにして「単一民族国家」として自己イメージを作り上げてきたのかを、 歴史資料をもとに検証した研究書である。アイヌ・琉球・植民地支配などへの言及も含め、 国民国家の物語の中で誰が可視化され、誰が不可視化されてきたのかが論じられる。

研究会で扱われた「単一民族国家像の歴史性」を理解するうえで中心的な文献である。

河原白兎著『古代の渡来人。多民族国家日本誕生』, 2025年 クラブハウス 文化人類学

日本人のルーツは、思っているよりはるかに壮大だった! 「日本人とは誰か」「境界はどう作られ、どう変化するか」という問いを投げかける。

第4回研究会で議論された「周縁から見た日本」の視点と強く響き合う内容となっている。

渡戸一郎編著、井沢泰樹編著『多民族化社会・日本』, 2010年 明石書店 文化人類学
一般向け新書レーベル

多言語化、多文化化、多国籍化が急速に進む日本は多民族化の道を進んでいる。一時さわがれた単一民族幻想が打ち砕かれた風景が現出するなかで、日本社会はどのような変容を迎えようとしているのか。また、国民国家パラダイムはどのような修正を迫られるのか。

「歴史的な多民族性」と「現在進行形の多文化社会」がどのようにつながるのかを俯瞰する手がかりになる。

ベネディクト・アンダーソン『定本 想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行』,2007年 書籍工房早山 理論的背景
国民・民族・アイデンティティ論の古典的文献

日本固有の議論を相対化するために、国民国家やエスニシティを扱った国際的な古典的文献を参照することも有効である。 アンダーソンの「想像の共同体」などは、「日本人」という枠組みの歴史的・想像的な性格を理解するうえで重要である。

第4回研究会で取り上げた日本固有の議論を、グローバルな文脈に接続するための理論的基盤として活用できる。

3. アイヌ・琉球・周縁から学ぶ文献

澤田健一著『縄文人の日本史 復刻版 〜縄文人からアイヌへ』, 2025年 高木書房 北方世界
本書は令和元年の2019年9月26日に柏艪舎から出版された本の復刻版です。

縄文時代から連綿と続く日本の歴史。 一般に語られる事実に含まれる不可解な謎は、アイヌの視点を通すことにより解き明かされる!

日本列島の北端を「周縁」ではなく「広域世界への窓」として捉え直す視点を与えてくれる。

高良倉吉『琉球王国』,1993, 岩波新書 南島世界
高良倉吉ほか著/沖縄・琉球史関連書

琉球王国の歴史や沖縄の文化を扱う入門書は、南西諸島が東アジア・東南アジアの海上ネットワークとどう結びついてきたのかを理解するために重要である。

第4回研究会の議論と合わせて読むことで、「日本の端」ではなく「アジア海域世界の結節点」として琉球を位置づけ直すことができる。

在日コリアン青年連合編著『在日コリアンの歴史を歩く;未来世代のためのガイドブック』, 2017, 彩流社 近現代史
在日コリアン研究の入門書・聞き書き・エッセイなど

近代以降、日本に暮らす朝鮮半島出身者・ルーツをもつ人々の歴史と生活を扱った文献群は、 日本社会の多民族性を理解するうえで欠かせない。 歴史資料に基づく研究書から、生活者の声に耳を傾ける聞き書き・エッセイまで、幅広く読まれている。

第4回研究会の議論を、植民地・戦後史・差別の問題と接続して考える際に参考となる。

瀬川拓郎監修『カラー版 1時間でわかるアイヌの文化と歴史』, 2019年, 宝島社新書 アイヌ文化入門書
日本文化のルーツとアイヌとの関係を知るための解説書

本書は、アイヌ研究の第一人者である瀬川拓郎氏を監修に招いて、 過去から現在までのアイヌの文化と歴史について、ビジュアル中心にまとめたもの。

現地訪問前後の予習・復習用教材としても活用できる。

4. 「日本語と歌」・明治文化革命を学ぶ文献

大岡信著『日本の詩歌――その骨組みと素肌』, 2017年, 岩波文庫 日本語と歌
コレージュ・ド・フランスにおける、全五回の講義録。(解説=池澤夏樹)

日本の叙景歌は、偽装された恋歌であったのか。和歌の核心にはいかなる自然観が存在していたのか。和歌と漢詩の本質的な相違とは? 勅撰和歌集の編纂を貫く理念とは? 日本詩歌の流れ、特徴のみならず、日本文化のにおいや感触までをも伝える卓抜な日本文化芸術論。

「日本語と歌」の関係を、古典から現代にわたって横断的に眺めたい受講者向けの入門書として位置づけられる。

佐佐木幸綱『佐佐木幸綱歌集』, 1997年, 短歌研究社 歌ことば
佐佐木幸綱氏は、『心の花』主宰・編集長。現代歌人協会前理事長。

佐佐木幸綱の短歌は、日常の何気ない風景を題材としつつ、その背後に潜む時間意識・存在感覚を浮き彫りにする点が特徴である。

第4回研究会での「日本語と歌」「朗誦文化」の議論を理解しなおす際の参考となる。

加藤周一『日本文学史序説』, 1979年, 平凡社 明治文化革命
上下巻あり。

古代和歌の感性 → 平安文学の情緒性 → 中世の無常観 → 近世の自然主義的傾向、といった時代の連続性を強調。 これらは形式は変われど、一つの日本的感性の系列であるとみなす。文学表現には、仏教的影響をふまえた無常観が一貫して流れているとする。 これは、時間的・歴史的な意識を希薄にし、永遠ではなく「移ろい」を中心に美を見出す文化態度であり、文学にも深く影響を与えていると分析する。

研究会で話題となった「明治文化革命」を、日本語表現と文学史の変化から捉え直す基礎文献として有用である。

丸山眞男著『日本の思想』, 1964年, 岩波新書 近代思想
「思想が日本人の内面にどう作用してきたか」を分析。

現代日本の思想が当面する問題は何か.その日本的特質はどこにあり,何に由来するものなのか.日本人の内面生活における思想の入りこみかた,それらの相互関係を構造的な視角から追求していくことによって,新しい時代の思想を創造するために,いかなる方法意識が必要であるかを問う.日本の思想のありかたを浮き彫りにした文明論的考察.

「多民族国家としての文化」と「明治国家の統合プロジェクト」を接続して考える際の理論的背景として位置づけられる。

5. 現代の多文化共生・移民・ビジネスに関する文献

松尾知明著『日本型多文化教育とは何か――「日本人性」を問い直す学びのデザイン』, 2023年, 明石書店 多文化共生
多様性を前提とした社会の提案。

2018年の入管法改定を契機に「移民時代」を迎えた日本では、多文化共生の課題は新たな段階を迎えている。本書は、それに対する考え方や進め方を具体的に構想し、「日本人性」の概念を問い直すことで、日本型多文化教育のグランドデザインを提案する。

第4回研究会での「多民族国家としての文化」を現代の政策・実務に接続する導入口となる。

塩原良和著『共生の思考法――異なる現実が重なりあうところから』, 2025年, 明石書店 移民研究
移民と日本社会を扱う入門書

分断の時代に求められる他者とつながるための発想の転換 「共生」概念を根本から問いなおす画期的論考

多民族国家としての日本の「現在進行形の姿」を捉えるための基礎文献として位置づけられる。

アニー・ジャン=バティスト (著), 百合田香織 (翻訳)『Google流 ダイバーシティ & インクルージョン インクルーシブな製品開発のための方法と実践』, 2021年, BNN. ビジネスとの接点
ダイバーシティ&インクルージョンとイノベーションに関するビジネス書

いったいどうすれば、市場シェアを獲得しつつ、見過ごされてきたグループに向けたよりインクルーシブなプロダクトをつくり、多様化する世界に適応できるのでしょうか? Googleのプロダクトインクルージョンチームは、そのための戦略を築き上げてきました。本書は、そうした彼らの足跡をたどる実践的なガイドです。

研究会のテーマを、企業経営・クリエイティブ産業・観光ビジネスに応用する際のヒントを与えてくれる。

Tom Finkelpearl (著)『What We Made: Conversations on Art and Social Cooperation ペーパーバック – イラスト付き』, 2013, Duke Univ. Press. アートと実践
多文化共生をテーマにしたアートプロジェクト・実践報告

移民コミュニティやマイノリティと協働するアートプロジェクトの記録集・カタログは、 多民族国家としての現実を可視化し、対話の場をひらく実践例として重要である。

アート・イン・ビジネス研究会の「アート」と「ビジネス」をつなぐ実践として、今後の企画・共同研究のヒントとなる。

6. オンラインでアクセスできるリソース

以下は、第4回研究会の予習・復習や授業・ゼミでの活用に適したオンラインリソースである。 実際のURLは、公式サイト内検索や大学図書館のデータベースから確認していただきたい。

国立科学博物館「日本人はどこから来たのか」(展示・特設ページ)
国立科学博物館 公式サイト内

展示概要・図版・解説などを通じて、日本人の起源に関する最新研究をわかりやすく紹介している。 研究会で扱った内容を、ビジュアルに確認することができる。

公式サイト内で「日本人はどこから来たのか」などのキーワードで検索すると見つけやすい。

国立民族学博物館・国立アイヌ民族博物館・沖縄関連博物館のオンライン展示
各館 公式サイト内

アイヌ・琉球・各地域文化に関するオンライン展示・デジタルアーカイブが公開されている。 物質文化だけでなく、映像資料やインタビューなどを通じて、多民族社会としての日本の姿に触れられる。

フィールドワークの事前学習や、オンライン授業の教材としても活用可能である。

自治体の「多文化共生プラン」公開資料
各自治体の公式サイト内 PDF など

多くの自治体が、多文化共生に関する行動計画や施策を公表している。 移民・外国人住民と共に暮らすための具体的な取り組みや課題が整理されており、 現代の多民族国家としての日本を理解する一次資料として重要である。

自治体名+「多文化共生プラン」で検索するとアクセスできる場合が多い。

大学・研究機関の公開講義・シンポジウムアーカイブ
各大学の動画アーカイブ・PDF資料など

日本人の起源、多文化共生、移民政策などをテーマとした公開講義・シンポジウムの動画や資料が、 大学・研究機関のウェブサイトで公開されていることがある。

研究会での議論を、他大学の研究者の議論と比較しながら深める際の参考となる。

7. おわりに ― 文献世界からフィールドへ

第4回アート・イン・ビジネス研究会では、「日本人の起源」と「多民族国家としての文化」を手がかりに、 日本社会の歴史的・構造的な多様性と、そこから生まれる文化的・経済的ポテンシャルが議論された。
本ページで紹介した文献は、その議論をさらに押し広げるための出発点にすぎない。

書物・論文・オンライン資料を手がかりに、博物館・現地コミュニティ・企業・アートプロジェクトなど、 実際のフィールドへと歩みを進めることで、「多民族国家としての日本」の姿はより立体的に見えてくるはずである。
その往復運動こそが、アート・ビジネス・研究をつなぐ本研究会の目指すところである。