第4回アート・イン・ビジネス研究会|参考文献ガイド
第4回 日本人の起源と多民族国家としての文化
本ページは、第4回アート・イン・ビジネス研究会「日本人の起源と多民族国家としての文化」で扱われたテーマを、
さらに深く学ぶための参考文献を整理したものである。
日本人の起源(縄文・弥生・遺伝学・考古学)、列島の多民族性(アイヌ・琉球・在日コリアンなど)、
「単一民族国家」像の形成と批判、現代の多文化共生とビジネスへの含意に加え、
研究会で話題となった「日本語と歌」「明治文化革命」に関する文献も紹介する。
1. 日本人の起源を学ぶ基本文献
「二重構造モデル」で知られる人類学者・埴原和郎による、日本人の起源をめぐる古典的概説書である。 縄文人と弥生人という二つの流れがどのように交わり、日本列島の人口史を形づくってきたのかを、 骨の形態や考古学的資料に基づいて平易に解説している。
研究会で議論された「単一のルーツではなく、重層的な人口史」という視点の背景を理解するための出発点として適している。
DNA人類学の第一人者が明らかにした衝撃の事実。従来の「縄文人と弥生人の混血で日本人が生まれた」説が覆される! ロングセラーとなった初版に、革命的新技術「核ゲノム分析」による大幅な進歩の成果を惜しみなく盛り込んで、バージョンアップした完全版刊行。
考古学・形質人類学の知見とあわせて読むことで、「日本人の起源」に関する最新像をバランスよく理解できる。
縄文・弥生時代を対象とした考古学入門書。土器・集落・墓制・農耕のあり方など、物質文化の変化を通して、 列島社会がどのように変容していったかを学ぶことができる。
「日本人の起源」を遺伝子だけでなく生活・技術・世界観の変化から捉えるための資料として有用である。
従来の「人類の祖先は海岸沿いに移動した」という説によれば、日本人の祖先は太古、海面が低かった陸続きの時代に歩いて日本列島にやってきた、と考えられていた。この定説に疑問を抱いた、著者を中心とする「国立科学博物館人類史研究グループ」は、ユーラシア大陸全体より出土した遺跡のデータを集め、その年代と、そこより出土した人骨のDNAを、地図上に再現した。
当時の船を手作りし、黒潮に乗って沖縄の島から島へと航海する挑戦の様子は、NHKスペシャル「人類誕生」で取り上げられた。
2. 多民族国家・「単一民族神話」を考える文献
明治以降、日本がいかにして「単一民族国家」として自己イメージを作り上げてきたのかを、 歴史資料をもとに検証した研究書である。アイヌ・琉球・植民地支配などへの言及も含め、 国民国家の物語の中で誰が可視化され、誰が不可視化されてきたのかが論じられる。
研究会で扱われた「単一民族国家像の歴史性」を理解するうえで中心的な文献である。
日本人のルーツは、思っているよりはるかに壮大だった! 「日本人とは誰か」「境界はどう作られ、どう変化するか」という問いを投げかける。
第4回研究会で議論された「周縁から見た日本」の視点と強く響き合う内容となっている。
多言語化、多文化化、多国籍化が急速に進む日本は多民族化の道を進んでいる。一時さわがれた単一民族幻想が打ち砕かれた風景が現出するなかで、日本社会はどのような変容を迎えようとしているのか。また、国民国家パラダイムはどのような修正を迫られるのか。
「歴史的な多民族性」と「現在進行形の多文化社会」がどのようにつながるのかを俯瞰する手がかりになる。
日本固有の議論を相対化するために、国民国家やエスニシティを扱った国際的な古典的文献を参照することも有効である。 アンダーソンの「想像の共同体」などは、「日本人」という枠組みの歴史的・想像的な性格を理解するうえで重要である。
第4回研究会で取り上げた日本固有の議論を、グローバルな文脈に接続するための理論的基盤として活用できる。
3. アイヌ・琉球・周縁から学ぶ文献
縄文時代から連綿と続く日本の歴史。 一般に語られる事実に含まれる不可解な謎は、アイヌの視点を通すことにより解き明かされる!
日本列島の北端を「周縁」ではなく「広域世界への窓」として捉え直す視点を与えてくれる。
琉球王国の歴史や沖縄の文化を扱う入門書は、南西諸島が東アジア・東南アジアの海上ネットワークとどう結びついてきたのかを理解するために重要である。
第4回研究会の議論と合わせて読むことで、「日本の端」ではなく「アジア海域世界の結節点」として琉球を位置づけ直すことができる。
近代以降、日本に暮らす朝鮮半島出身者・ルーツをもつ人々の歴史と生活を扱った文献群は、 日本社会の多民族性を理解するうえで欠かせない。 歴史資料に基づく研究書から、生活者の声に耳を傾ける聞き書き・エッセイまで、幅広く読まれている。
第4回研究会の議論を、植民地・戦後史・差別の問題と接続して考える際に参考となる。
本書は、アイヌ研究の第一人者である瀬川拓郎氏を監修に招いて、 過去から現在までのアイヌの文化と歴史について、ビジュアル中心にまとめたもの。
現地訪問前後の予習・復習用教材としても活用できる。
4. 「日本語と歌」・明治文化革命を学ぶ文献
日本の叙景歌は、偽装された恋歌であったのか。和歌の核心にはいかなる自然観が存在していたのか。和歌と漢詩の本質的な相違とは? 勅撰和歌集の編纂を貫く理念とは? 日本詩歌の流れ、特徴のみならず、日本文化のにおいや感触までをも伝える卓抜な日本文化芸術論。
「日本語と歌」の関係を、古典から現代にわたって横断的に眺めたい受講者向けの入門書として位置づけられる。
佐佐木幸綱の短歌は、日常の何気ない風景を題材としつつ、その背後に潜む時間意識・存在感覚を浮き彫りにする点が特徴である。
第4回研究会での「日本語と歌」「朗誦文化」の議論を理解しなおす際の参考となる。
古代和歌の感性 → 平安文学の情緒性 → 中世の無常観 → 近世の自然主義的傾向、といった時代の連続性を強調。 これらは形式は変われど、一つの日本的感性の系列であるとみなす。文学表現には、仏教的影響をふまえた無常観が一貫して流れているとする。 これは、時間的・歴史的な意識を希薄にし、永遠ではなく「移ろい」を中心に美を見出す文化態度であり、文学にも深く影響を与えていると分析する。
研究会で話題となった「明治文化革命」を、日本語表現と文学史の変化から捉え直す基礎文献として有用である。
現代日本の思想が当面する問題は何か.その日本的特質はどこにあり,何に由来するものなのか.日本人の内面生活における思想の入りこみかた,それらの相互関係を構造的な視角から追求していくことによって,新しい時代の思想を創造するために,いかなる方法意識が必要であるかを問う.日本の思想のありかたを浮き彫りにした文明論的考察.
「多民族国家としての文化」と「明治国家の統合プロジェクト」を接続して考える際の理論的背景として位置づけられる。
5. 現代の多文化共生・移民・ビジネスに関する文献
2018年の入管法改定を契機に「移民時代」を迎えた日本では、多文化共生の課題は新たな段階を迎えている。本書は、それに対する考え方や進め方を具体的に構想し、「日本人性」の概念を問い直すことで、日本型多文化教育のグランドデザインを提案する。
第4回研究会での「多民族国家としての文化」を現代の政策・実務に接続する導入口となる。
分断の時代に求められる他者とつながるための発想の転換 「共生」概念を根本から問いなおす画期的論考
多民族国家としての日本の「現在進行形の姿」を捉えるための基礎文献として位置づけられる。
いったいどうすれば、市場シェアを獲得しつつ、見過ごされてきたグループに向けたよりインクルーシブなプロダクトをつくり、多様化する世界に適応できるのでしょうか? Googleのプロダクトインクルージョンチームは、そのための戦略を築き上げてきました。本書は、そうした彼らの足跡をたどる実践的なガイドです。
研究会のテーマを、企業経営・クリエイティブ産業・観光ビジネスに応用する際のヒントを与えてくれる。
移民コミュニティやマイノリティと協働するアートプロジェクトの記録集・カタログは、 多民族国家としての現実を可視化し、対話の場をひらく実践例として重要である。
アート・イン・ビジネス研究会の「アート」と「ビジネス」をつなぐ実践として、今後の企画・共同研究のヒントとなる。
6. オンラインでアクセスできるリソース
以下は、第4回研究会の予習・復習や授業・ゼミでの活用に適したオンラインリソースである。 実際のURLは、公式サイト内検索や大学図書館のデータベースから確認していただきたい。
展示概要・図版・解説などを通じて、日本人の起源に関する最新研究をわかりやすく紹介している。 研究会で扱った内容を、ビジュアルに確認することができる。
公式サイト内で「日本人はどこから来たのか」などのキーワードで検索すると見つけやすい。
アイヌ・琉球・各地域文化に関するオンライン展示・デジタルアーカイブが公開されている。 物質文化だけでなく、映像資料やインタビューなどを通じて、多民族社会としての日本の姿に触れられる。
フィールドワークの事前学習や、オンライン授業の教材としても活用可能である。
多くの自治体が、多文化共生に関する行動計画や施策を公表している。 移民・外国人住民と共に暮らすための具体的な取り組みや課題が整理されており、 現代の多民族国家としての日本を理解する一次資料として重要である。
自治体名+「多文化共生プラン」で検索するとアクセスできる場合が多い。
日本人の起源、多文化共生、移民政策などをテーマとした公開講義・シンポジウムの動画や資料が、 大学・研究機関のウェブサイトで公開されていることがある。
研究会での議論を、他大学の研究者の議論と比較しながら深める際の参考となる。
7. おわりに ― 文献世界からフィールドへ
第4回アート・イン・ビジネス研究会では、「日本人の起源」と「多民族国家としての文化」を手がかりに、
日本社会の歴史的・構造的な多様性と、そこから生まれる文化的・経済的ポテンシャルが議論された。
本ページで紹介した文献は、その議論をさらに押し広げるための出発点にすぎない。
書物・論文・オンライン資料を手がかりに、博物館・現地コミュニティ・企業・アートプロジェクトなど、
実際のフィールドへと歩みを進めることで、「多民族国家としての日本」の姿はより立体的に見えてくるはずである。
その往復運動こそが、アート・ビジネス・研究をつなぐ本研究会の目指すところである。